新リース会計の「最初の仕訳」、使用権資産は“リース負債と同額”で本当にいいですか?-旧オペレーティング・リースの経過措置と財務インパクト
執筆者:公認会計士 土間 航輔

2027年4月1日以後開始する事業年度から、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等(以下「新リース会計基準」)の適用が始まります。3月決算の会社であれば、2027年4月1日の期首に、新リース会計基準のもとでの「最初の仕訳」を切ることになります。
その最初の仕訳、具体的にイメージできているでしょうか。
「オペレーティング・リースも含めて、リース負債と使用権資産を計上する仕訳でしょう」と思われた方、その通りです。では、そのときの使用権資産はいくらで計上するのでしょうか。経過措置を適用する場合、旧オペレーティング・リースの使用権資産には、次の2つの測定方法が用意されています。
リース開始日から新リース会計基準を適用していたと仮定した帳簿価額(移行日までの減価償却相当額を控除した金額。リース負債との差額は期首利益剰余金で調整)
リース負債と同額(前払・未払リース料を調整)
実務の現場では、②の「リース負債と同額」で検討を進めている会社が多いように見受けられます。計算がシンプルで、期首利益剰余金への影響も生じないためです。ただ、その理由が「過去にさかのぼった計算を手作業で行うのは大変」「利用予定の会計システムが①に対応していない」といった“消去法”であるなら、少し立ち止まって検討してみる価値があります。
①と②のどちらを選ぶかによって、移行時の使用権資産・総資産・期首利益剰余金、そして移行後の減価償却費(将来のP/L負担)が変わるからです。
本記事では、旧オペレーティング・リースの使用権資産を①・②のどちらで測定するかに焦点を当て、両者の財務インパクトの違いと、方針を決めるまでの進め方を解説します。経過措置の全体像や、リースの識別・旧ファイナンス・リースに係る経過措置、第124項の簡便措置については、後日別途記事に致します。
この記事のポイント
旧オペレーティング・リースの使用権資産は、「①開始日から適用していたと仮定した帳簿価額」と「②リース負債と同額」のどちらかを、リース1件ごとに選べる
一般に、①は期首利益剰余金が減る代わりに移行後の減価償却費が軽くなりやすく、②は移行時の調整がない代わりに移行後の償却負担が重くなりやすい(契約条件により異なる)
差額は契約条件や移行時点によって変わるため、「消去法で②」ではなく、影響額を試算したうえで選ぶことが大切
本記事では、現行の企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」を、新リース会計基準との対比の観点から「旧リース会計基準(旧基準)」と記載しています。また、文中では会計基準を以下のとおり省略して記載しています。
基:リースに関する会計基準(企業会計基準第34号)
適:リースに関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第33号)
1. 前提:経過措置とは
新リース会計基準は、原則として新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することを求めていますが、実務上の負担が大きいことから、適用初年度の期首より前の累積的影響額を期首利益剰余金に加減し、期首から新基準を適用する経過措置が認められています(適118項ただし書き)。大多数の企業がこの経過措置を採用すると考えられます。旧オペレーティング・リースについては、この経過措置のもとで、リース負債と使用権資産を次のとおり算定することができます(適123項)。

2. 旧オペレーティング・リースの経過措置-使用権資産の2つの測定方法
リース負債の算定(適第123項(1))
適用初年度の期首時点における残りの借手のリース料を、適用初年度の期首時点の借手の追加借入利子率を用いて割り引いた現在価値により、リース負債を計上します。この算定方法は、以下でご紹介する使用権資産の算定オプションにかかわらず共通です。
使用権資産の算定-リース1件ごとに選べる2つの測定オプション(適第123項(2))
使用権資産の算定方法は、次の2つのオプションからリース1件ごとに選択できます。
オプション①(123項(2)①)
会計基準がリース開始日から適用されていたかのような帳簿価額とする方法です。ただし、割引計算には適用初年度の期首時点の借手の追加借入利子率を用います(リース開始日時点の割引率を用いるわけではありません)。
オプション②(123項(2)②)
上記123項(1)で算定されたリース負債と同額とする方法です。ただし、適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期末日に貸借対照表に計上された前払又は未払リース料の金額の分だけ修正します。
オプション①では、リース開始日以降、移行日までの期間に対応する減価償却費相当額が既に控除された金額で使用権資産が計上されるため、リース負債の計上額との間に差額が生じ、その差額は移行日の属する期首利益剰余金の調整として処理されます。オプション②では、使用権資産をリース負債(前払・未払リース料調整後)と同額とするため、この調整は生じません。
なお、いずれのオプションでも、適用初年度の期首時点の使用権資産については減損会計を適用する必要があります(適第123項(3))。この期首時点で減損会計を適用した結果生じる移行日減損については期首利益剰余金で調整されることになると考えられます。したがって、以下でいう「期首利益剰余金への影響なし」は、あくまで123項(2)①・②の選択そのものから生じる差額についての説明となります。
リース負債は、利息法により支払利息を除いた元本返済部分だけが取り崩されるため、リース期間の前半ほど残高の減り方が緩やかです。一方、使用権資産を定額法で償却する場合、残高は毎期一定額ずつ減少します。そのため、多額の前払リース料がない典型的なケースでは、移行時点において、①で算定した使用権資産は②(リース負債と同額)よりも小さくなります。
この典型的なケースを前提に、①と②の関係を整理すると次のとおりです。
貸借対照表(移行時点)
使用権資産・総資産:①<②
期首利益剰余金:①<②(①は差額の分だけ減少)
損益計算書(移行後)
減価償却費:①<②(①は使用権資産の簿価が小さい分、償却負担が軽い)
財務指標
ROA・ROE:①の方が高くなる傾向(利益が増え、総資産・純資産が減るため)
自己資本比率:①の方がやや低くなる傾向(純資産と総資産が同額ずつ減少するため)
つまり、①は(a)移行日に期首利益剰余金が減少する代わりに、(b)移行後の減価償却費の負担が②に比べて軽くなる、という関係にあります。移行後の利益やROAを重視する会社にとっては、①の方が有利に働くケースが多いと考えられます。
一方で、①には、期首の純資産(利益剰余金)が減少すること(財務制限条項や配当方針への影響も確認が必要です)、リース開始日や当初のリース料など過去の契約情報を契約ごとに揃える必要があること、そして計算負荷が大きいこと、といった負担もあります。また、上記の関係はリース料の支払条件や前払・未払の状況、過去の契約変更の有無などによって変わり得るため、一律に言えるものではありません。だからこそ、契約ごとに①と②の数値を並べて比較することが重要になります。

数値イメージ
ASBJが示す設例(年間リース料1,000万円、契約期間5年、1年経過後の期首に移行、割引率5%のケース)をもとにした簡略化イメージは次のとおりです。
オプション① | オプション② | |
リース負債 | 35,460千円 | 35,460千円 |
使用権資産 | 34,636千円 | 35,460千円 |
期首利益剰余金への影響 | ▲824千円 | 影響なし |
移行後の年間償却費(残り4年) | 約8,659千円 | 約8,865千円 |
※税効果、減損等は考慮していません。
この設例では、オプション①は過年度までの累積的影響824千円を期首利益剰余金に反映する一方、その分だけ移行後4年間の減価償却費が合計824千円小さくなります。つまり、過去分の影響を移行日の純資産に反映するか、その影響をより多く移行後のP/Lに残すかという違いと捉えると分かりやすいでしょう。
表1 リース開始日から新基準を適用していたと仮定した場合の推移(単位:千円)
リース期間 | 支払リース料 | 支払利息 | 元本返済額 | リース負債(期末) | 減価償却費 | 使用権資産 | 差額(負債-資産) |
開始時 | - | - | - | 43,295 | - | 43,295 | 0 |
1年目 | 10,000 | 2,165 | 7,835 | 35,460 | 8,659 | 34,636 | 824 |
2年目 | 10,000 | 1,773 | 8,227 | 27,232 | 8,659 | 25,977 | 1,256 |
3年目 | 10,000 | 1,362 | 8,638 | 18,594 | 8,659 | 17,318 | 1,276 |
4年目 | 10,000 | 930 | 9,070 | 9,524 | 8,659 | 8,659 | 865 |
5年目 | 10,000 | 476 | 9,524 | 0 | 8,659 | 0 | 0 |
※減価償却は定額法・残存価額ゼロ。千円未満を四捨五入しているため、合計が一致しない場合があります。
表1の読み方
リース負債は、支払利息を除いた元本返済額だけ減少します。元本返済額は当初は小さく(1年目7,835千円)、年々大きくなります(5年目9,524千円)。一方、使用権資産は毎年8,659千円ずつ定額で減少します。そのため、償却額が元本返済額を上回る前半は差額が広がり、元本返済額が償却額を上回る後半は差額が縮んでいきます。この設例では、差額は3年目末に1,276千円で最大となり、契約終了時にはゼロに戻ります。
1年経過後に移行するこの設例では、移行日の差額は824千円です。これがオプション①を選んだ場合の期首利益剰余金への影響額になります。仮に2年経過後に移行するのであれば1,256千円、3年経過後なら1,276千円と、移行時点が契約期間の中盤に近いほど影響額は大きくなります。
なお、移行日時点で残りのリース期間が12か月以内のリースについては、①・②による算定を行わずに短期リースとして処理する簡便措置もあります(適124項(2))。第124項の簡便措置については、後日別途解説致します。
3. 移行時の処理は、リース1件ごとに選べるものがある
見落とされがちですが、経過措置は「自社として一つの方法に統一しなければならない」ものではありません。適用指針第118項ただし書きの経過措置を採用した場合、旧ファイナンス・リース(第120項)、旧オペレーティング・リースの使用権資産算定オプション(第123項(2)①・②)、そして第124項の簡便措置(1)~(4)は、いずれもリース1件ごとに選択・適用できます。
実務的には、影響額の程度や事務負担の観点からすべてのリースに同一の方法を適用する会社もあり得ますが、より精緻な対応としては、金額的重要性、過去の契約情報の入手可能性、計算負荷、移行後の財務影響などを踏まえて契約ごとに検討することも有用です。例えば、金額的重要性の高い契約(賃借不動産など)についてはオプション①を、件数は多いが1件あたりの金額的重要性が低い契約(車両、OA機器など)についてはオプション②を、さらに移行日時点で残存期間が12か月以内の契約については第124項(2)の簡便措置を、といったハイブリッドな運用も合理的な選択肢になります。
ここで問われるのが、システムの対応力です。リースごとに異なる経過措置・異なる計算ロジックを適用し、それぞれについて正確な移行仕訳を出せるかどうかは、Excelや簡易な自社ツールでの管理では実務上かなりの負荷になります。
4. 「リース負債と同額」を消去法で選ぶ前に
経過措置の検討では、「①は過去にさかのぼる計算が大変だから、全件②で」と早々に方針を決めてしまうケースが少なくありません。特に、利用する会計システムが①の計算に対応していない場合、実質的に②しか選べないことになります。しかし、ここまで見てきたとおり、この選択は移行後数年間のP/Lと財務指標に影響する会計上の意思決定です。方針を決める前に、少なくとも次の点を確認しておくことをお勧めします。
金額的重要性が高く、移行時点でリース期間が半分程度経過している契約(本社・店舗・倉庫などの不動産賃借等)を洗い出す
それらの契約について、オプション①と②の差額(期首利益剰余金への影響額、移行後の年間償却費の差)を試算する
①に必要な過去の契約情報(リース開始日、当初のリース料、契約変更の履歴など)が入手できるかを確認する
試算結果をもとに、契約ごとの方針(①・②・124項(2)の簡便措置)を決め、監査人と早めに協議する
グループ会社を含めて、方針と計算結果をどう管理するかを決めておく
そのうえで②を選ぶのであれば、それは十分に合理的な判断です。大切なのは、「計算システムの都合で②しか選べなかった」ではなく、「影響額を把握したうえで②を選んだ」という状態で移行日を迎えることです。
5. まとめ
経過措置の適用と選択は、単なる実務上の処理の便宜に影響するだけでなく、選択次第で総資産の金額や将来のP/L負担額が大きく変わり得る会計上の意思決定です。したがって、経過措置の選択による影響額をあらかじめ試算し、比較検討したうえで方針を決めることが重要です。
特にオプション①を採用する場合には、リース開始日にさかのぼって使用権資産を計上・償却し続けた場合の計算結果を、移行日時点で正確に把握する必要があります。契約件数が多い企業では、システムによる計算支援がなければ、この試算自体が実務上非常に煩雑になると考えられます。
経過措置をうまく活用して、新リース会計に適切に対応しましょう。
経過措置に対応したリース会計システム「Transリース会計」
公認会計士が開発したリース会計クラウドシステム「Transリース会計」は、2026年9月のアップデートで経過措置に対応しています。移行日時点の各契約について、旧ファイナンス・リースを引き継ぐ方法のほか、旧オペレーティング・リース等に認められる短期リース経過措置や2種類の使用権資産の測定方法に対応し、契約ごとに経過措置を選択し、計算・確定まで画面上で完結できます。
旧オペレーティング・リースの使用権資産の測定では、オプション①・②それぞれの移行日残高(使用権資産・リース負債)、期首利益剰余金への影響額、移行後の償却スケジュールを並べて比較したうえで、採用する方法を選択できます。本記事で解説した「①と②の差の試算」を、契約ごとに画面上で確認できるということです。残存リース期間による契約の絞り込みや割引率の一括設定にも対応しており、多数の契約をまとめて処理することも可能です。
経過措置は要件が細かく、リース会計実務そのものへの理解が不可欠な領域であり、システムによって対応の深さに差が生じやすい部分でもあります。経過措置の選択とその影響額の試算でお悩みの経理ご担当者様は、ぜひ一度Transリース会計のデモで、①と②の比較画面をご覧ください。
「Transリース会計」の詳細はこちらをご参照ください:【機能アップデート】Transリース会計が新リース会計基準の「経過措置」に対応しました
著者プロフィール
![]() | 土間 航輔 公認会計士 2006年にあずさ監査法人に入所後、会計監査を中心にIFRSアドバイザリーなど様々な会計業務に従事。その後トランザックを創業し、目下、「Transリース会計」の開発・提供に奮闘しています。 |
本稿は2026年9月時点で公表されている企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」および企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」に基づく一般的な解説であり、特定の取引・契約に対する会計処理の適用を保証するものではありません。実際の適用にあたっては、貴社の監査人・会計顧問にご確認ください。数値例はASBJの公表設例を参考にした簡略化イメージであり、実際の金額は契約条件により異なります。




