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3ステップで判定!新リースの識別〈具体例で考えよう〉

  • 執筆者の写真: 里奈 三好
    里奈 三好
  • 10月22日
  • 読了時間: 7分

更新日:6 日前

2027年4月から新リース会計基準の適用が求められます。

新リース会計基準において難しいポイントが、リースの識別です。

契約書上はリース契約と記載されていなくても、リースに該当して資産/負債の計上が求められるケースがあります。


それでは一体何がリースに該当するのでしょうか?

リースの識別方法について解説していきます。


リースの識別を考える女性

目次

 1:リースの識別


1:リースの識別


リースの判定にあたっては、以下の3つのステップで検討をします。 

Step1:資産が特定されているか

Step2:資産の利用から生じる経済的利益のほとんど全てを得ることができるか

Step3:資産の使用方法を指図する権利がある


上記の検討の結果、全てYesとなる契約がリースを含むことになります。

3つのステップについては、次の章で具体例を交えて解説します。


リースの識別の判断における判定フローは以下の通りです(新リース適用指針設例1)。


新リース会計におけるリースの識別フロー


2:資産が特定されているか(Step1)


資産は通常は契約書に明記されることによって特定されます。


例えば車のリース契約の場合、車種・ナンバーなど、その車両を特定できる情報が契約書に記載されていれば、資産が特定されていると考えられます。

また、事務所を借りる契約においても、どのフロアのどの区画を借りるのか契約書に記載されていれば、同様に資産が特定されていると考えられます。


それでは資産が特定されていないケースとはどのようなものがあるでしょうか。

具体例を見ていきましょう。

例題1 前提条件

・A社は5年間にわたって所定の数量の商品を、所定の日程で輸送することをB社(貨物輸送業者)に依頼する契約を締結しました。

・この輸送量はA社が5年間にわたって10両の鉄道車両を使用することに相当しますが、契約では鉄道車両の種類のみが指定されています。

・B社(貨物輸送業者)は、複数の鉄道車両を所有しており、輸送する物品の日程及び内容に応じて使用する鉄道車両を決定できます。

このようなケースでは、B社が複数の鉄道車両を有しており、A社の承認なしに鉄道車両を入れ替えることが可能であるため、資産が特定されていない(=リースではない)と考えられます。


また、B社はどの鉄道車両を使用するかを決定することでB社の業務の効率化を図っており、B社に経済的利益をもたらしています。このように鉄道車両の入れ替えがB社に経済的利益をもたらす場合、B社には資産の入替権があると判断され、貸手に資産の入替権がある場合には、資産が特定されていない(=リースではない)と考えられます。


経済的利益についてもう少し理解するために、コピー機をリースした例を考えてみましょう。

リースしたコピー機が契約期間内に壊れてしまった時、貸手が新しいコピー機を搬入する必要がある旨の条項が契約書に記載されていた場合、貸手に資産の入替権があると判断できるでしょうか。


答えはNoです。

貸手は新しいコピー機を搬入することでむしろコストが発生し、新しいコピー機の搬入は経済的利益をもたらすことはありません。したがって、貸手はコピー機を入れ替えることが可能であるものの、資産の入替権はないと判断できるため、資産が特定されている可能性が高いと考えられます。


3:資産の利用から生じる経済的利益のほとんど全てを得ることができるか(Step2)


資産をリースして契約期間中に自由に使用可能な場合は、資産の利用から生じる経済的利益のほとんど全てを得ることができると考えられます。


例えば事務所や店舗を借りる場合、賃貸借契約期間を通じて営業活動が行われていれば、そこで生じる経済的利益(営業活動を行うことで確保できる売上など)は借手が享受できるため、Step2の要件を満たすことが多いと考えられます。


コピー機や車といった動産のリースでも、使用方法・稼働時間などは借手が自由に決定できるケースが多いです。そこで生じる経済的利益(動産を使用することで業務が効率化することなど)は借手が享受できるため、Step2の要件を満たすことが多いと考えられます。


4:資産の使用方法を指図する権利があるか(Step3)


Step3の指図権の有無はStep1,Step2と比較すると、イメージすることが難しいかもしれません。


指図権があるとは、借手が資産をいつ・どのように使用するかを決定できる状況を指します。

こちらも具体例を見ていきましょう。

例題2 前提条件

・A社はB社(電力会社)とB社(電力会社)が所有する発電所が産出する電力のすべてを10年間にわたって購入する契約を締結しました。

・B社(電力会社)は、業界において認められた事業慣行に従って当該発電所を稼働し、維持管理を行っています。

A社が当該発電所の使用方法(算出する電力の量及び時期)を決定する権利を有していることが契約で定められています。

・B社(電力会社)が他の契約を履行するために当該発電所を使用できないことも契約で定められています。

・当該発電所は特定された資産です(Step1の要件を満たす)。

資産の特定の検討(Step1)⇒前提条件でStep1の要件を満たすと記載されています。


経済的便益の検討(Step2)⇒A社は10年の使用期間全体を通じて当該発電所が産出する電力のすべてを得る権利を有するため、10年の使用期間全体を通じて資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有しています。


指図権の検討(Step3)⇒A社は、契約により当該発電所の使用方法(算出する電力の量及び時期)を決定する権利を有しています。つまり、A社の意思で発電所をいつ・どの程度稼働させるかを決定することができるため、資産の使用方法を指図する権利を有しています。


結論⇒Step1,2,3を満たすため、当該契約はリースを含む契約であると判断できます。


それでは指図権がないケースとはどのようなものがあるでしょうか。

例題2の条件を一部変更した具体例を見ていきましょう。

例題3 前提条件

・A社はB社(電力会社)とB社(電力会社)が所有する発電所が産出する電力のすべてを10年間にわたって購入する契約を締結しました。

・B社(電力会社)は、業界において認められた事業慣行に従って当該発電所を稼働し、維持管理を行っています。

・契約において、使用期間全体を通じた当該発電所の使用方法(算出する電力の量及び時期)が定められており、契約上、緊急の状況などの特別な状況がなければ使用方法を変更することはできないことも定められています。

・A社は当該発電所の設計に関与していません。

・当該発電所は特定された資産です(Step1の要件を満たす)。

資産の特定の検討(Step1)⇒前提条件でStep1の要件を満たすと記載されています。(例題2と同様)


経済的便益の検討(Step2)⇒A社は10年の使用期間全体を通じて当該発電所が産出する電力のすべてを得る権利を有するため、10年の使用期間全体を通じて資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有しています。(例題2と同様)


指図権の検討(Step3)⇒A社は、設計に関与しておらず、使用期間全体を通じて当該発電所の事前に決定されている使用方法を変更することができないため、当該発電所の使用方法を指図する権利を有していません。もし、A社が使用期間全体を通じた資産の使用方法を事前に決定するように発電所を設計している場合は、指図権があると考えられます(⇒リース識別判定フロー参照)。


結論⇒Step3の要件を満たさないため、当該契約はリースを含まない契約であると判断できます。


5:まとめ


・リースの識別の判定は以下の3つのステップで行います。

 Step1:資産が特定されているか

 Step2:資産の利用から生じる経済的利益のほとんど全てを得ることができるか

 Step3:資産の使用方法を指図する権利がある

 

・すべてのStepの検討結果がYesであれば、リースを含む契約と考えられます。


・一般的な事務所、店舗などの賃貸借契約はリースを含むことがほとんどであると考えられます。



著者プロフィール

著者のイメージ

三好 里奈 公認会計士


2014年に有限責任 あずさ監査法人に入社。

退職後は監査法人時代の知見を活かし、IFRSアドバイザリー業務や、

新リース会計基準のアドバイザリー業務を提供しています。


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