【新リース会計】リース期間の算定〈延長オプションがある場合どうする?〉
- 里奈 三好
- 17 時間前
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2027年4月から新リース会計基準の適用が求められます。
新リース会計基準においては「リース期間」を算定しなければなりません。
リース期間は契約期間と同じで良いのではないか?と思われたかもしれませんが、新リース会計基準におけるリース期間は、単なる契約期間ではなく、更新や解約の可能性を考慮した実際の利用状況に基づいて判断する必要があります。
それではどのようにリース期間を算定するのでしょうか?
リースの期間の算定方法について解説していきます。

目次
1:リース期間とは |
新リース会計基準におけるリース期間は、借手のリース期間と貸手のリース期間の2つが定義されています。今回はどの会社においても検討が必要であろう借手のリース期間について考えていきます。
新リース会計基準における借手のリース期間は、以下の3つの要素の合計と定義されています。
借手のリース期間(= ①+②+③)
①解約不能期間(リース契約の解約ができない期間)
②借手が行使することが合理的に確実(*)であるリースの延長オプションの対象期間
③借手が行使しないことが合理的に確実(*)であるリースの解約オプションの対象期間
*「合理的に確実」とは、蓋然性が相当程度高いことを指す
②と③についてはパッと読んでも、何を言っているのか分かりにくいかと思います。
要約すると「高い確度でリースが継続されると見込まれる期間」と考えることができます。
合理的に確実であるかの判断は、経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮して判断します。
経済的インセンティブについては、次の章で解説します。

2:経済的インセンティブ |
経済的インセンティブを生じさせる要因については、以下が含まれます。
以下の点を総合的に評価し、延長オプションの行使や解約オプションの不行使が合理的に確実か判断します。
(1) | 延長オプション又は解約オプションの対象期間に係る契約条件 (リース料、違約金、残価保証、購入オプションなど) |
(2) | 大幅な賃借設備の改良の有無 |
(3) | リースの解約に関連して生じるコスト |
(4) | 企業の事業内容に照らした原資産の重要性 |
(5) | 延長オプション又は解約オプションの行使条件 |
具体的に考えてみましょう。
(2)であれば、店舗を借りる際に多額の費用をかけて内装工事を実施した場合などが考えられます。
内装工事の費用が多額であれば、その費用を回収するために店舗を長く借りることが想定されます。
(3)であれば、オフィスを借りる場合などが考えられます。
もしオフィスの引っ越し費用が少額であれば、多額な場合と比較して賃借期間は短くなると考えられます。また、オフィスの候補地が多く、代替物件を容易に見つけることができる場合も、代替物件が少ない場合と比較して賃借期間は短くなると考えられます。
3:過去の実績は考慮すべきか |
延長オプションの行使や解約オプションの不行使が合理的に確実か判断する際に、過去の実績を考慮する方法も有用であると考えられます。
過去に同様の資産を借りていた場合、その際の借用期間等がリース期間の判断に参考になることがあります。
ただし、一概に過去の慣行に重きを置いてオプションの行使可能性を判断するのではなく、将来の見積りに焦点を当てる必要があるとされています。
(新リース会計基準 適用指針 BC33より)
4:具体例(延長オプションがある場合) |
それでは具体例を用いてリース期間を考えてみましょう。
今回は、延長オプションがある場合について検討します。
前提条件 1.A社(借手)は、X事業の店舗として使用するため、B社(貸手)が保有する建物の店舗用スペースについて、B社と賃貸借契約(普通借家契約)を締結しました。 2.A社は当該契約がリースを含むと判断しています。 3.当該賃貸借契約の契約期間は1年であり、A社は1年間の途中で当該契約を解約することはできません。A社は、1年が経過した後は、更新時の市場レートの賃料で当該契約を毎年更新することが可能です。また、延長オプションの行使条件は付されておらず、延長オプションの対象期間に係るその他の契約条件については特に設定されていません。 4.A社は、リース開始日において当該店舗に対して重要な建物付属設備を設置しました。A社は、当該建物付属設備の物理的使用可能期間を10年と見積もっています。 5.A社のX事業では、営業上の観点から定期的なリニューアルを必要としており、概ね5年で当該建物付属設備の一部について入替えのための除却と追加コストが発生します。 6.当該店舗は戦略的に重要な店舗ではなく、損益の状況によっては撤退することがあり得ます。 |
【解約不能期間の決定】
前提条件3より、A社は、賃貸借契約の契約期間である1年間の途中で解約することはできないため、当該契約における解約不能期間は1年であると考えられます。
また、1年経過後、当該契約を毎年更新することができるため、1年を超える期間について延長オプションを有すると考えられます。
【経済的インセンティブの検討】
前提条件4より、A社はリース開始日において当該店舗に対して重要な建物付属設備を設置していることから、大幅な賃借設備の改良を行っていると考えられます。
また、この状況において延長オプションを行使しない場合には建物付属設備が除却されるため、延長オプションを行使する経済的インセンティブがあると考えられます。
前提条件5より、A社のX事業では、営業上の観点から定期的に店舗のリニューアルを行う必要があり、概ね5年で当該建物付属設備の一部について入替えのため除却と追加コストの発生が見込まれます。したがって、経済的インセンティブの観点から当該店舗の損益状況によってはリニューアルを行ってまで延長オプションを行使しない可能性があると考えられます。
前提条件6より、当該店舗は戦略的に重要な店舗ではなく、損益の状況によっては撤退することがあり得るため、企業の事業内容に照らした原資産の重要性は必ずしも高くないと考えられます。
【リース期間の検討】
経済的インセンティブの検討結果を踏まえ、A社のビジネスモデルに基づき現実的に想定しうる2つのシナリオについて検討していきましょう。
(シナリオ1)5年経過時点まで延長オプションを行使する
(シナリオ2)10年経過時点まで延長オプションを行使する
まずシナリオ1について、当該店舗に対して重要な建物附属設備を設置している状況において早期に延長オプションを行使しない場合には建物附属設備が除却されるため、解約不能期間の経過後、店舗のリニューアルを行う前までの期間(5年間)については、延長オプションを行使する可能性は合理的に確実よりも高いと判断できます。
次にシナリオ2について、5年経過後に店舗のリニューアルを行い追加コストが必要となりますが、当該店舗は戦略的に重要な店舗ではなく、企業の事業内容に照らした原資産の重要性は必ずしも高くない状況において、店舗のリニューアルを行ってまで延長オプションを行使するかどうかは当該店舗の損益の状況次第であることから、シナリオ2の10年経過時点まで延長オプションを行使する可能性は、シナリオ1の5年経過時点まで延長オプションを行使する可能性よりも相対的に低く、合理的に確実よりも低いと判断できます。
結論⇒以上のことから、A社の店舗のリース期間は5年と考えられます。

(新リース会計基準 適用指針 設例8-2より)
5:まとめ |
・借手のリース期間は必ずしも契約期間と同じではないので留意が必要です。
・借手のリース期間は以下の3つの要素の合計です。
①解約不能期間(リース契約の解約ができない期間)
②借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間
③借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間
・合理的に確実の判断においては、経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮して判断する必要があります。
・合理的に確実の判断においては、過去の実績を考慮する方法も有用ですが、過度に考慮すべきでなく、将来の見積りに焦点を当てることに留意すべきです。
・一般的な事務所、店舗などの賃貸借契約は延長オプションを含むことが多いと考えられるため、
事前にリース期間の検討が必要です。
【参考】新リース関連ブログ
著者プロフィール
![]() | 三好 里奈 公認会計士 2014年に有限責任 あずさ監査法人に入社。 退職後は監査法人時代の知見を活かし、IFRSアドバイザリー業務や、 新リース会計基準のアドバイザリー業務を提供しています。 |




